怪事件・ミステリー公開日: 2026-07-01更新日: 2026-07-01

【怪事件・ミステリー】ベラ・イン・ザ・ウィッチ・エルム|木の洞に眠っていた女性は誰なのか──失われた遺骨と、答えの出ない80年

1943年、イギリスの森で少年たちが木の洞から人骨を発見した。翌年、「誰がベラをニレの木に入れたのか」という落書きが街に現れ始める。ナチスのスパイ説、魔術儀式説など諸説が語られてきたが、遺骨そのものが行方不明になった今、身元も死因も確定していない。

推定死亡1941年ごろ/遺骨発見1943年4月18日イギリス・イングランド ウスターシャー州 ハグリーウッド信憑性 B
怪死・不審死
ベラ・イン・ザ・ウィッチ・エルム

1943年4月、イギリス・イングランド中部の森で、無断で敷地に入り込んだ4人の少年たちが、朽ちたセイヨウハルニレ(ウィッチエルム)の木の洞から人間の頭蓋骨を見つけた。翌年、「誰がベラをニレの木に入れたのか」という不気味な落書きがバーミンガムの街角に現れ始める。ナチスのスパイだった説、魔術儀式の犠牲者だった説など、80年にわたり様々な憶測が語られてきたが、肝心の遺骨そのものが行方不明になった今、被害者が誰であったのかは、もはや永遠に分からないかもしれない。

ベラ・イン・ザ・ウィッチ・エルムとは

1943年4月18日、イギリス・ウスターシャー州、バーミンガムから南西に約16km離れたハグリー村の森「ハグリーウッド」で、鳥の巣を探しに来た4人の少年が、朽ちて空洞になったセイヨウハルニレ(ウィッチエルム)の木の中に人間の頭蓋骨を発見した。少年たちは無断で敷地に入っていたため、当初は口をつぐんでいたが、親を通じて警察に通報される。

警察が木の洞を調べたところ、ほぼ完全な人体の骨、靴、金の結婚指輪、衣服の切れ端が見つかった。片方の手は、木から少し離れた場所で別に発見されている。死後およそ1年半が経過していたとみられ、死亡時期は1941年ごろと推定された。翌1944年、「誰がベラをハグリーウッドのニレの木に入れたのか」という趣旨の落書きがバーミンガム市内に現れ始め、この身元不明の被害者は「ベラ」という名で呼ばれるようになった。

ハグリーウッドの発見現場と遺留品

時代背景/舞台

事件が起きた1940年代前半のイギリスは、第二次世界大戦の真っただ中にあった。バーミンガムを含む西ミッドランズ地方は、ドイツ軍による空襲(ブリッツ)の標的にもなっており、混乱した戦時下では身元不明者の届け出や記録管理も平時ほど徹底されていなかった。この時代背景が、後の身元特定を一層難しくしている。

ハグリーウッドは、コバム子爵の私有地「ハグリーホール」の敷地内にある森で、地元では古くから魔術や妖術にまつわる言い伝えがある土地としても知られていた。

発見時の状況・捜査の経緯

  • 1943年4月18日:少年たちが木の洞の中で頭蓋骨を発見。警察の調査で、ほぼ完全な人体の骨、靴、金の結婚指輪、衣服の切れ端が見つかる。
  • 法医学的所見:死後およそ1年半が経過しており、死亡時期は1941年ごろと推定された。木の中という特殊な環境が、遺体の保存状態に影響したとみられる。
  • 1944年:バーミンガム市内の壁に、「誰がベラをハグリーウッドのニレの木に入れたのか」という趣旨の落書きが現れ始める。同様の落書きは、少なくとも1970年代から1999年ごろまで、発見現場近くのオベリスクに散発的に書かれ続けた。
  • 1953年、「酔った女性」証言:ウナ・モソップという女性が、元夫ジャック・モソップとオランダ人の知人が、酔った女性を驚かせるいたずらのつもりで木の中に押し込んだと証言した。ジャック・モソップはその後、木から自分を見つめる女性の夢を繰り返し見るようになり、精神科病院に入院、遺体発見前に病院内で死亡していたとされる。この証言の真偽は確認されていない。
  • 1945年、魔術儀式説の浮上:考古学者マーガレット・マレーが、片手が切断されていたことを「グローリーの手」と呼ばれる呪術的な儀式と結びつけて説明し、大きな話題となった。
  • 2000年代、ナチス・スパイ説の浮上:1941年にロンドン塔で処刑された最後の人物、ドイツの諜報員ヨーゼフ・ヤコブスの遺留品から、ドイツの女優クララ・ボイアレの写真が見つかったことから、彼女が「ベラ」ではないかという説が語られるようになった。
  • 2016年:クララ・ボイアレの死亡証明書が発見され、1942年12月にベルリンで死亡していたことが確認された。目撃証言によればボイアレの身長は約180cmだったのに対し、ベラの骨格は約150cmと推定されており、この説は否定された。
  • その後:捜査資料の一部や遺骨そのものの所在は、その後の年月で失われており、現代的なDNA鑑定を行うことができない状態となっている。近年、頭蓋骨の写真をもとにした顔の復元がテレビ番組の企画で行われている。
事件の経緯・年表

通常の説明・有力視されてきた説の検証

超常的な説明を持ち出さずに検討できる範囲で、もっとも詳しく検証されてきたのが「ナチス・スパイ説」である。ドイツの諜報員ヨーゼフ・ヤコブスが所持していた写真の女性クララ・ボイアレが、西ミッドランズ地方に降下する予定だったスパイ候補として訓練を受けていたことは事実として確認されている。しかし2016年に発見された死亡証明書により、彼女は1942年にベルリンで死亡していたことが判明し、身長の不一致も含め、この説は物証によって否定されている。

一方、「酔った女性をいたずらで木に入れた」とするウナ・モソップの証言は、単純な事故死・凍死の可能性を示唆するが、証言者本人の話以外に裏付ける物証がなく、真偽を検証する手段がない。

ナチス・スパイ説の検証

諸説と評価

  • ナチス・スパイ説(クララ・ボイアレ):2016年発見の死亡証明書と身長の不一致により否定されている(評価:×=物証により否定)
  • 魔術儀式(グローリーの手)説:片手が切断されていたことが根拠とされたが、捜査当局は動物による食害の可能性を指摘しており、儀式性を裏付ける物証はない(評価:×=代替説明がある)
  • 酔った女性のいたずら・事故死説:証言者ウナ・モソップの話に基づくが、本人の証言以外の裏付けがない(評価:△=検証不能)
  • 地元の売春婦「ベラ」説:1944年にバーミンガムの女性から寄せられたタレコミに基づくが、落書きとの前後関係を含め確認が取れていない(評価:△=可能性のひとつ)
  • 戦時下の身元不明の避難民・行方不明者説:戦時の混乱の中で記録が残らなかった人物である可能性(評価:△=有力な一般的可能性)
諸説の評価早見

残る謎

もっとも根本的な謎は、被害者が誰であったのかという点そのものである。遺骨・捜査資料の多くがその後の年月で失われており、現代の技術で改めてDNA鑑定を行うことも、もはやできない状態にある。1944年に始まった落書きについても、誰が、なぜ、どのような経緯でこの情報を知っていたのかは分かっておらず、警察の捜査でも落書きの筆者は特定されなかった。

オカルト・陰謀論をどう見るか

この事件は、片手の切断という特徴から「グローリーの手」という呪術的儀式と結びつけて語られることが多い。しかし、当時の捜査当局は、この状態について動物による食害の可能性を指摘しており、儀式性を積極的に裏付ける物証は存在しない。マーガレット・マレー自身、魔女や秘密結社の存在を広く主張する傾向があった研究者であり、その学説は当時から専門家の間で慎重に扱われてきた。

Occultpediaとしては、こうした魔術儀式説を「面白い解釈のひとつ」として紹介することはできても、それを事実であるかのように扱うことは避けたい。片手が離れた場所で見つかったという物証は、儀式性の証拠としてよりも、まず動物による攪乱という自然な説明で検討されるべきものである。

正体とは|信憑性Bの理由

  1. 想定される通常の説明:戦時下の身元不明の行方不明者、地元の女性、あるいは酔って木に入れられた末に凍死・窒息した人物など、複数の現実的な説明が検討されてきた。
  2. 説明力の評価:ナチス・スパイ説は死亡証明書と身長データという具体的な物証によって明確に否定されており、魔術儀式説も動物による食害という代替説明が存在する。
  3. 盛られた要素と事実の切り分け:「グローリーの手」という呪術的な解釈は、マーガレット・マレーという特定の研究者の主張に由来するものであり、捜査当局の見解とは異なる。この点を区別せずに語られることが多い。
  4. 独立記録の質:当時の警察の捜査記録、複数の新聞報道、2016年に発見されたクララ・ボイアレの死亡証明書、法医学的な骨格分析など、複数の独立した情報源が個々の説の当否について手がかりを提供している。
  5. ランク確定:有力視された特定の説(スパイ説)は物証により明確に否定されているが、遺骨・捜査資料の紛失により、被害者の身元そのものを確定する手段は失われている。超常的な謎ではないが、「誰であったか」を確定する決め手を欠くフーダニット型の未解決事件であるため、信憑性Bと判定する。

まとめ

ベラ・イン・ザ・ウィッチ・エルムは、1943年にイギリスの森で発見された身元不明の遺骨をめぐる、80年以上未解決のままの事件である。有力視されたナチス・スパイ説は物証によって明確に否定され、魔術儀式説も捜査当局の見解とは異なる特定の研究者の主張に由来するものである。しかし、遺骨と捜査資料の多くが失われた現在、被害者が誰であったのかを確定する手段はもはや残されておらず、この事件が正式に「解決」する可能性は極めて低い。

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よくある質問

Q. ベラの身元は結局分かったの? 分かっていない。遺骨と捜査資料の多くがその後の年月で失われており、現代のDNA鑑定を行うこともできない状態にある。

Q. ナチスのスパイだったという説は本当? 否定されている。有力候補とされたドイツの女優クララ・ボイアレは、2016年に発見された死亡証明書により1942年にベルリンで死亡していたことが確認されており、身長も目撃証言と一致しない。

Q. 魔術儀式の犠牲者だったという説は本当? 確証はない。片手が切断されていたことが根拠とされたが、捜査当局は動物による食害の可能性を指摘しており、儀式性を裏付ける物証は存在しない。

Q. なぜ信憑性がBなのか? 有力視された特定の説(スパイ説)は物証により明確に否定されているが、遺骨・捜査資料の紛失により被害者の身元そのものを確定する手段が失われており、決着のついていないフーダニット型の事件であるため。