No.000017名無しの体験者2026/07/12(日) 06:59:31

京都府|怖さ ★★★★★不思議な体験

母の部屋

小学六年生まで、母は夜になると押し入れで寝ていた。 家には母の寝室もあったのに、午後十一時を過ぎると布団を抱え、僕の部屋の押し入れへ入っていく。 「どうしてそこで寝るの?」 幼い頃に聞くと、母は戸の隙間から顔だけを出して答えた。 「お母さんが外にいると、あの人が入ってくるから」 父は、母が少しおかしいのだと言っていた。 ある晩、押し入れの中から母のすすり泣く声が聞こえた。 「開けて」 母の声だった。 だが同時に、僕の隣には母が寝ていた。 その日は珍しく、押し入れに入らず、僕の布団に潜り込んでいたのだ。 隣の母は震えながら、僕の口を塞いだ。 押し入れの中から、何度も戸を引っかく音がした。 「開けてよ。今日は私が外でしょう?」 翌朝、母はいなくなっていた。 押し入れの戸だけが開いていた。 中には、古い布団と大量の爪痕、そして壁に貼られた新聞記事があった。 二十年前、この家で母親が幼い娘を押し入れに閉じ込め、餓死させたという記事だった。 亡くなった娘の写真を見て、僕は息が止まった。 母と同じ顔だった。 その日の夜、父がすべてを話した。 僕の母は、記事に載っていた娘の妹だった。 姉が死んだ後、母は毎晩、押し入れから姉の声を聞くようになった。 だから母は、自分から中に入っていた。 中を空けておくと、姉が代わりに外へ出てくるから。 父がそう言った直後、廊下から母の声がした。 「今日は、お姉ちゃんがあなたのお母さんをするって」 父の顔が青ざめた。 僕には、声の主が母ではないと分かっていた。 母は僕を、一度も「あなた」と呼んだことがない。 寝室の戸の下から、細い指が何本も入り込んできた。 そして押し入れの中から、本物の母が泣きながら叫んだ。 「その人を見ないで。顔を覚えられたら、次はあなたが中に入るの」
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