No.000016名無しの体験者2026/07/06(月) 13:19:08

栃木県|廃村|怖さ ★★★★幽霊目撃

入れて、

これは、大学生の時に友人のKと廃村に行った時の話です。 その廃村は、地元から車で一時間ほど山奥に入った場所にありました。 昔は十数世帯が暮らしていた集落だったそうですが、今は誰も住んでおらず、家は崩れ、道も草に埋もれているような場所です。 心霊スポットとして有名というほどではありませんでしたが、地元の掲示板には「夜に行くと人の声がする」「空き家の中から拍手が聞こえる」といった噂が書かれていました。 Kはそういう場所が好きで、私は半分嫌々ついていきました。 廃村に着いたのは午後四時頃でした。 まだ明るい時間なのに、山に囲まれているせいか、集落の中は妙に薄暗く感じました。 車を道端に停め、私たちはスマホのライトを確認しながら歩き始めました。 古い家がいくつか残っていて、窓ガラスは割れ、玄関は外れ、畳は黒く腐っていました。 「思ったより雰囲気あるな」 Kはそう言って笑っていましたが、私はその時点でもう帰りたくなっていました。 奥へ進むと、小さな神社のような建物がありました。 鳥居は片方の柱が折れて斜めになっていて、社の扉には古い縄が何重にも巻かれていました。 ただ、その縄だけが妙に新しかったんです。 他のものは全部朽ちているのに、縄だけが、まるで最近誰かが巻き直したように綺麗でした。 「これ、誰か来てるってことだよな」 私がそう言うと、Kは嬉しそうにスマホを構えました。 「逆に面白いじゃん」 そう言って、社に近づこうとした時です。 後ろの方から、 カン、カン、カン。 と音がしました。 金属で地面を叩くような、乾いた音でした。 振り返っても誰もいません。 けれど音は、私たちが通ってきた集落の入口の方から、少しずつ近づいてきているようでした。 「誰かいるんじゃね?」 Kはそう言いましたが、声が少し震えていました。 私は「帰ろう」と言いました。 Kも珍しく反対しませんでした。 私たちは急いで来た道を戻り始めました。 でも、道が変なんです。 確かに一本道だったはずなのに、さっきはなかった分かれ道がありました。 右に進めば崩れた家が並び、左に進めば竹林の奥へ続いています。 来る時、こんな道は通っていません。 スマホの地図を開こうとしても圏外でした。 しかも、時刻表示がおかしくなっていました。 画面には「4:44」と表示されていました。 何度見ても、時刻はずっと4:44のままでした。 その時、また音がしました。 カン、カン、カン。 今度は近い。 竹林の奥に、誰かが立っていました。 背の低い老婆のような姿でした。 白っぽい着物を着て、腰を曲げ、片手に錆びた火ばさみのようなものを持っています。 その先で、地面を叩いているようでした。 カン、カン、カン。 「すみません!」 Kが声をかけました。 「道に迷ったんですけど!」 老婆は答えませんでした。 ただ、こちらに向かってゆっくり歩いてきます。 私はKの腕を掴みました。 「行こう」 二人で右の道を走りました。 崩れた家の間を抜け、草をかき分けながら進みました。 それでも後ろからは、ずっと音が聞こえていました。 カン、カン、カン。 走っているのに、音の距離が変わらないんです。 しばらく走ると、見覚えのある場所に出ました。 さっきの神社でした。 斜めになった鳥居。 縄で巻かれた社。 私たちは戻ってきてしまったんです。 Kが息を切らしながら、 「何だよこれ」 と呟きました。 その時、社の中から声が聞こえました。 「入れて」 小さな女の子の声でした。 私もKも、その場で固まりました。 「入れて」 もう一度、社の中から聞こえました。 扉は縄でぐるぐる巻きにされています。 でも確かに、その内側から声がしていました。 「開けちゃだめだ」 私はそう言いました。 Kも頷きました。 その瞬間、背後でカン、と音がしました。 振り返ると、老婆が鳥居の前に立っていました。 顔は俯いていて見えません。 老婆は火ばさみのようなもので地面を叩きながら、ゆっくり口を開きました。 「開けたら、連れていかれるよ」 声は、老婆のものとは思えないほど若い声でした。 社の中の女の子が笑いました。 「嘘つき」 老婆がまた地面を叩きました。 カン。 「開けたら、代わりになるよ」 社の中の声が言いました。 「もうなってるよ」 その瞬間、Kが急に私を見ました。 顔色が真っ青でした。 「お前、誰と来た?」 私は意味が分かりませんでした。 「何言ってんだよ。お前と来たんだろ」 Kは震える手でスマホを見せてきました。 さっきまで撮っていた動画です。 そこには、廃村に入っていくKだけが映っていました。 隣に私はいません。 でも、私の声だけは入っていました。 誰もいない横から、Kに話しかけているんです。 怖くなって、私も自分のスマホを確認しました。 今日撮った写真が何枚もありました。 廃屋。 鳥居。 草に埋もれた道。 でも、どの写真にもKが写っていませんでした。 私のスマホには、誰もいない廃村だけが写っていました。 二人とも、お互いの姿だけが記録されていなかったんです。 「帰ろう」 Kが言いました。 老婆は鳥居の前に立ったまま、少しだけ横にずれました。 その向こうに、来た時の道が見えていました。 私たちは何も言わずに走りました。 後ろから、社の中の女の子の声がしました。 「一人で帰るの?」 振り返りませんでした。 車に戻ると、すぐにエンジンをかけました。 山道を下り始めると、スマホの電波が戻り、時刻も動き出しました。 午後六時半でした。 私たちの感覚では三十分ほどしか経っていなかったのに、二時間以上経っていたんです。 帰り道、私たちはほとんど話しませんでした。 家の近くのコンビニに寄った時、Kが言いました。 「さっきの動画、もう一回見ていいか」 嫌でしたが、二人で確認しました。 動画には、やはり私は映っていませんでした。 Kだけが廃村を歩き、誰もいない横に話しかけています。 そして神社の場面になった時、社の縄が少しずつほどけ始めました。 そんな場面、現実では見ていません。 動画の中だけで、縄が勝手にほどけていくんです。 やがて社の扉が少し開きました。 中は真っ暗でした。 その奥から、長くて黒い手が出てきました。 子供の手ではありません。 指が異様に多い手でした。 その手が、画面の中のKの肩を掴みました。 同時に、助手席にいた私の肩にも、冷たいものが触れました。 私たちは叫んで車から飛び出しました。 後部座席から、声がしました。 「一人、足りない」 コンビニの明かりの中に逃げ込むと、その気配は消えました。 Kのスマホの動画は消えていました。 私のスマホに残っていた写真も、全部真っ黒になっていました。 後日、あの廃村について調べると、昔あの集落には「数を合わせるもの」を祀った社があったそうです。 集落で誰かが死ぬと、数日後には必ず見知らぬ人間が一人現れる。 村人たちはその人を不審に思わず、「前からいた人」として受け入れる。 その代わり、本来そこにいた誰かの記憶が、一人分だけ消える。 そんな話でした。 あれからKとはほとんど会っていません。 仲が悪くなったわけではありません。 ただ、二人でいると怖くなるんです。 本当に一緒に帰ってきたのは、あの日のKだったのか。 そして、今ここにいる自分は、本当に自分なのか。 最近、夜になるとたまに聞こえます。 カン、カン、カン。 遠くからではありません。 部屋の中からです。 そしてその音が三回鳴った後、必ずスマホに通知が来ます。 差出人はKです。 メッセージには、毎回同じことだけが書かれています。 「次は、お前が呼んで」 私はまだ返事をしていません。 でも、この話を書いている間、何度も勝手に文字が入力されるんです。 私が打っていないのに、同じ言葉が画面に増えていく。 入れて。 入れて。 入れて。
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