No.000015:ミシェル:2026/06/20(土) 07:00:19
熊本県|山|怖さ ★★★★★|不思議な体験
やまびこ
これは高校生の時に、友人のEと山登りをした時のことです。
その日、Eと一緒に地元にある山に登る約束をしていました。登ろうとしている山というのが、登山用の装備も必要なく、小学生でも一時間ほどで登れる手軽さから、地元の人にはお馴染みの山です。私も小学生の頃から何十回とこの山に登っていて、地元の人なら誰でも十回以上は登ったことがあると思います。
私たちは午前五時頃から登り始めました。朝早いのに多くの登山客とすれ違い、そのたびに「おはようございます」と互いに挨拶を交わしました。こんな朝もいいな、そんなことを思いながら一時間ほど歩いて、山頂に到着。Eは「やっほー!」と叫んで満足すると、「じゃあ帰るか」と言い、二人で下山を始めました。
山の中腹に差し掛かった頃、背後から「おーい」と誰かに呼ばれました。
振り返ると、登山服に帽子を被ったおっさんが、少し離れた場所からこちらを呼んでいるんです。
「おーい、おーい、おーい」
それを聞いてEが「何ですか?」と返しました。するとおっさんは「おーい」とまた繰り返すばかりです。こちらの問いかけに返事が返ってくることはありませんでした。
私はEに「行こう」と言い、Eも「そうだな」と頷いて、二人で下山を続けました。
ただ、その後もおっさんは遠くから「おーい、おーい、おーい」と呼びながら、後ろをついてくるんです。だんだんと不気味になってきました。
鳥の声や木の揺れる音も聞こえず、ただおっさんの「おーい」という声だけが山に響いています。
そしてもう一つ不可解だったのは、おっさんは私たちに近づいてくるわけではなく、一定の距離を保って後ろをついてくることでした。私たちが止まるとおっさんも止まって、「おーい」と呼んでくる。
「なんかさ、ちょっと怖くね?」
Eに言いました。するとEは、
「それもそうなんだけどさ、なんでさっきから誰ともすれ違わないの?」
確かにEの言う通りでした。登っていた時にはあれほどすれ違った登山客と、下山中は全くすれ違わないんです。
Eと私は、何かあった時のためにスマホで動画を撮ることにしました。充電がなくなると嫌なので、交代で撮影することにして、まずEがおっさんを動画で撮り始めました。
しばらくそうしていると、Eが急に「走ろう!走ろう!」と私に言いました。
私はわけが分からないまま、Eと一緒に山道を駆け降りました。その間も「おーい、おーい、おーい」と声は聞こえていましたが、だんだんと遠のいていき、最終的には聞こえなくなりました。
しばらく下山したところで休憩を挟んだ時、「どうしたんだ急に」とEにわけを聞きました。
Eは言いました。
「お前さ、あのおっさんの顔見た?」
私は「いや、見てない。離れてたし、おっさん帽子被ってたしな」と答えました。
Eは撮影中にズームしたそうです。そしてその顔を見たと言います。
「あのさ……顔が、人間じゃなかった」
私はゾクッとして、「どんな顔だったの」と聞きました。
「何だろうな、なんか動物みたいな……どうも犬に似ていた気がする」
Eはそう言いました。私は「ちょっとスマホの動画見よう」と言って、早速Eが撮った動画を二人で再生しました。
動画には、誰も映っていませんでした。
何もない山道が映っているだけです。あのおっさんの姿は、どこにもない。
「なんだこれ?俺、しっかり画面越しに見てたんだぞ……」
Eは愕然としていました。
その時。
「おーい」
またあの声が聞こえてきました。今度はどんどん近づいてくるんです。
「おーい、おーい、おーい」
私たちは怖くなり、また一目散に駆け下り始めました。
それから数分で山の麓にたどり着き、「助かった……」と心の底から声が出ました。Eも同じ気持ちだったようで、「ちょっとびびったな」と笑いながら言ってきました。
Eの笑顔に釣られて、私も「ちょっと物足りなかったけどね」と冗談を言いました。「嘘つけよ」と返されて、二人で笑い合ったんです。
すると——
耳元で、誰かが「おーい」と囁きました。
私とEは叫び声を上げて、その場から逃げました。
後に分かったことなんですけど、山の妖怪に「山彦」という妖怪がいるそうです。Eは山彦の絵を見て、あのおっさんの顔にそっくりだと未だに言うんです。
私たちが見たのは、妖怪だったんでしょうか。
あれ以降、怖くてあの山には登っていません。
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